武闘自作派編(その1・お買い物編)
98年当時、私はパソコンを持っていなかった。その年の2月に手持ちのFMVを人に譲ってしまったのだ。これ以上パソコンに使われたくない、それが当時の私の思いだった。人はパソコンのみに生きるにあらず。
だが私はどうやら人ではないらしい。日々激しくなる禁断症状が心身をむしばんでゆく。その禁断症状をごまかすためテレビゲーム(私の場合『ゲーム』とは『大戦略』を意味する)にやりきれぬ激情をぶつける日々。だが禁断症状はますます悪化するばかりであった。毎月のようにパソコン雑誌を買い求め、知識ばかりがどんどん蓄積されてゆく。もはや限界であった。これ以上パソコンのない生活を続ける事は私の精神を崩壊させてしまうだろう。そして乾ききったスポンジのような心を満たすには、もはや出来合いのパソコンなどでは役不足であった。次は自作しかない。そして飢えた魂は次なる愛機の姿を何度も頭の中に思い描くのだった。
そんなある日、遂に『運命の出会い』が私を待っていた。
運命の出会いその1・マザーボード『Iwill XA100』 9800円
それは10月のある日。新宿をうろついていた私は、ふらりと寄ったパソコンショップにこのマザーボードが特価で売られているのを発見してしまった。自作について何の知識もなかった自分が本をたよりに学習した末にベストと選んだマザーボード。それがなんと1万円! これが全ての始まりだった。
ジャンパの設定は100MHZ×3、電圧2.2V。「K6−2差せえ〜っ」というボードの叫びが聞こえてくる。AGP×1、PCI×3、PCI/ISA×1、ISA×2という、メーカー品のデスクトップしか使った事のない人間には目もくらむような拡張性。そしてボード中央の誇らしげなAladdin5チップセット。その全てが自作心をくすぐる。
よ〜し、買うぞぉ! 来週の給料日が来たら。
この時、私にはその1万円の余裕すらなかったのだ。ああ…
運命の出会いその2・ビデオカード『カノープス PWR128P/4VC』 12800円
一週間後、もらったばかりの給料を握りしめてXA100を買いに行く。よかった、まだ売ってた! よ〜し、こうなったらあとは自作道一直線だ。
そして獲物を抱え意気揚々と帰ろうとする私の前に、さらなる獲物が現れた。中古コーナーで売ってたビデオカード。それがPWR128P/4VCであった。しかも中古とはいえ12800円! 私の心臓は止まりそうになった。無論、嬉しくてである。
PWR128P/4VC。このビデオカードの素晴らしさについて語らせたらそれだけで一冊の本になるだろう。だがそれよりももっと大事な事がある。それは、
『私はこのカードに惚れている』
という事だ。そもそも私が自作を考えはじめたのも、
『このカードが使いたいから』
と言っても過言ではない。パソコンのパーツに対してこれ以上の褒め言葉があるだろうか。
パソコンの進化、特にビデオカードの進化はまさに日進月歩。RIVA128などという数世代も前のチップを積んだこんなカードになんの魅力があるだろう。だがそれも考え方ひとつだ。現在主流の最新カードはもはやあきらかにオーバースペック。3Dゲームに手を出さない限り、通常の使用ならRIVA128の性能で何の問題もない(どころか発売当時このカードは間違いなく最強の3Dカードだった)。それに加えてこのカードにはテレビやビデオの動画や静止画を取り込むキャプチャー機能がある。それも専用のキャプチャーカードと比べても遜色のない高機能。ポリゴンゲームに興味はなくともアニメ好きという私のような人間にこれほどうってつけのカードがあるだろうか。それほど多機能なこのカードがこの値段。その場で購入を決めたのは言うまでもない。
(ちなみにこのビデオカードの発売は97年暮れの頃と記憶しているが、99年10月現在に至るも、私はこれに代わるビデオカードを見つけられずにいる)
マザーボードとビデオカードを買ってしまった以上、もはや後には引けない。あとはひたすら自作道をひた走るのみ。あくる日曜日、さっそく秋葉原に乗り込んだ。決戦だ。
今回の(といっても始めてなんだが)自作パソコンを作るにあたっては自分なりのポリシーがあった。それは『ガチガチに守りにはいる』という事だ。
金のない自分が生活費を削って格安のパソコンを作る。それはいい。それはいいがいわゆる激貧パソコンみたいな、読む人の笑いを誘うようなそんなパソコンを作る気は全くなかった。できないのだ。激貧だからこそ冒険はできない。泣いても笑ってもそれが私のメインマシンとなるからだ。ある程度のスペックを持ちながらも、何よりも確実に動作する事。それが今回のテーマである。
運命の出会いその3・CPU『K6−2/300』 13980円
マザーボードを選んだ時点でCPUはK6−2で決まりのはずだが、実は多少の紆余曲折があった。実際のパーツ集めをする遙か以前から自分の頭の中では何度となくパソコンを組み立てていたのだが、その仮想パソコンにささっていたのはK6−2ではなくK6の233もしくは266だった。理由は簡単。2万円以上するK6−2など、私には高嶺の花だったから。
ところがこの土壇場に来てK6−2が一気に値下がりし、なんとか予算内でK6−2を載せる事ができた。これが一週間前ならK6−2などありえなかった。パソコンパーツはまさに生もの。これだから自作は面白い。もっとも逆にこれが2か月後であったならうちのマシンは間違いなくセレロン300Aを積んでいただろう。
(ちなみにK6−2/300の値段は99年10月現在では5500円前後。わずか1年で叩き売り状態… こうなると分かってはいても、やはり悲しいものがある)
運命の出会いその4・CD−ROMドライブ『ミツミFX320S』 7800円
今回の自作のテーマは『ガチガチの守り』。その典型がこのミツミの32倍速ドライブだった。雑誌で自作記などを読むと安物のCD−ROMドライブでトラブってる例が非常に多いのだ。だから一番定評のあるメーカーにした。要するにブランド指向だ。
最初に入った店ではこのドライブはあいにくの在庫ぎれだった。店の人はミツミのよりT社のものが静かでいいですよ、と勧めてくれた。事実、あとで知った事だがT社のドライブはとても評判がいい。だが私はかつてT社のカセットデッキのトラブルで泣きをみている。それも二度もだ! だからそのドライブを買うわけにはいかなかった。もしも私がT社のCD−ROMドライブを買ったとしよう。それが万一動かなかったら? そして狂気と化した私がT社の本社ビルに火をかけてしまったら? 社会の平和のため私はT社のドライブを買うわけにはいかなかったのだ。許せT社。
で、結局ミツミの32倍速のものを買ったのだが、結論からいうと「失敗」。なにしろ動作音がうるさい。店員さんが『T社のは静か』と言ったのは、裏をかえせば『他のメーカーのはやかましい』って事だったのか。おまけにCDへのアクセス時、常にひと呼吸おいて読みにいくのでストレスがたまる。これではせっかくの32倍速の値打ちも半減である。但し大容量のデータを連続して読みにいく時(例えばOSのインストール時)は、今まで使ってた4倍速など比べ物にならない圧倒的速さを誇る。面目躍如というところか。
運命の出会いその5・64MBメモリ(PC100対応・CL2) 11200円
今回の買物で一番危ない橋を渡ったのがメモリだった。CPUにK6−2を選択したので当然ベースクロック100MHZを狙うことになる(ちなみにこの当時、PCを100MHZで動かすというのは多分に冒険的意味あいがあった)。ところで実際にメモリを買いにショップに入った時、私はパニックになった。メモリの表記にCL3とかCL2とか書いてあるのだ。PC100対応にも二種類あるなんて私はこの時まで知らなかった。どうしよう、どっちを買えばいいんだ。やはり2と3なら3の方が大きいからCL3を選んだ方がいいのか? いや舌切り雀の欲張りばあさんのような例もあるからここは控えめにCL2を選ぶのがいいのか?
困った私は逃げるようにお店をあとにして、駆け込み寺のように近くの本屋に飛び込んだ。そうして分かったのはどうやらCL2のほうが性能がいいらしいという事だった。なぜなのか理由は知らない。動けばいいのだ動けば。ひとこと店員に聞けば済んだものを、そんな自分の勝手な判断でCL2とやらを買った。結局CL2で正解だったのだが、まさに『結果オーライ』である。
運命の出会いその6・FDD『TOMCAT3モードPLUS』 4500円
ワープロ専用機とパソコンの間で文書をやりとりする必要から3モードFDDのほうがいいとは分かっていたのだが、予算の問題で2モードで我慢するつもりだった。ところがこれも運命のいたずらか、たまたま入った店の2モードFDDが予想していたより高く、これまた3モードの方は予想してたより安かったので、咄嗟の判断で3モードに決めた。出会いを重視したのだ。今回、唯一予算オーバーとなったパーツだ。しかし悪い買い物ではなかったと思う。
運命の出会いその7・ATX筐体(メーカー不明… ていうか調べるのめんどくさい) 10500円
これが最後の難関、一番の悩みだった。他のパーツは全て買い物に来る前に大体のめぼしをつけていたのだが、筐体だけはどれを買えばいいか全く分からなかった。おそらく私のような自作初心者が一番悩むのがマザーボードと筐体だと思う。だってどれも同じにしか見えないもの。特に自作用の筐体。なんで揃いも揃って真っ白で同じ顔ばかりなのだろう。これでは選びようがないではないか。使い勝手なんか使ってみないと分からないし。それでも雑誌の受け売りで拡張ポートの板のネジ止めの具合やらなんやら、一応チェックはいれて、値段もそこそこで青のワンポイントのきれいな筐体にした。ただ、もっとメジャーな筐体にすればよかったかもしれない。今回の『ガチガチの守り』というテーマからは少し外れてしまったかも。
ちなみに筐体を一番最後に買ったのは、どこかの雑誌に「筐体は重いから一番最後にした方がいいよ」との助言があったからだ。ほんと重いわ、こりゃ。
その他、シリコングリス(300円)とIDEケーブル(500円)を買ってこの日の戦いを終えた。
二日間のトータルで消費税込み75000円。ほぼ予想通りだ。こういうのって大抵予想外の出費がかさむものなのでそれを考えると始めての自作ツアーにしてはなかなか優秀だと思う。これも足でかせいだたまものだ(疲れた)。
もちろんこれだけでパソコンは作れない。いくつかのパーツは以前から持っていた物を使い回すつもりだ。
手持ちパーツその1 CPUクーラー(山洋電機製) |
FMVを使ってた当時、意味もなく純正のクーラーと付け替えるつもりで購入。しかし当時の私はCPUの外し方が分からなかった(!)のでただの飾りとなっていた。ようやくの、待ちに待ってた出番である。 CPUクーラー数々あれど、圧倒的な信頼性と静粛性を兼ね備えたものといえばこれをおいて他にはあるまい。まさに定番中の定番。うちのラナちゃんも愛用してます。 |
手持ちパーツその2 HDD(故CONNER製・810MB) |
友人のHDD増設を手伝った際、「4ギガもあるんやったらこんな810メガのHDDなんかいらんやん。ちょうだい」と強引にガメてきた、元々はNECバリュースターV10についてたもの。 |
手持ちパーツその3 キーボード(富士通製FMV−KB211) |
いわゆる親指シフトキーボードだ。私はこれがないと安心して眠れない。 |
手持ちパーツその4 ディスプレイ(FMV付属の17インチ) |
ある意味、ディスプレイこそ最も大事なパーツかもしれない。そして、決して安いものではない。特に単体で買うと馬鹿にならない値段だ。これを持ってなかったら自作を思いとどまったかもしれない。 |
手持ちパーツその5 マウス(MSマウス 2ボタンの) |
これは本当は手持ちではなくビックカメラで売ってた新品(2000円)なのだが、ポイントカードというものを使って手に入れたので、なんとなく「買った」という気がしない… |
さあ、パーツは揃った。あとは組むのみ!
注… こんな事を言い訳してどうするんだ、って気もするが、私は毎月7万円もの余剰資金をやりくりできるような身分ではない。その後の私は終わる事のない資金繰り地獄にさいなまれるのだった。ああ。
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