地獄の一丁目編

 今使っているスピーカーはアルテックCD408。値段はともかく「知る人ぞ知る」スピーカー。決して悪いものではありません。

 でも私はこれの音が気に入りませんでした。人の声が濁り、奥にひっこんでるように思えるのです。最初はエージング(慣らし)が済んでないせいだと気楽に構えていましたが、この子ときたらいつまでたっても引っ込み思案が直らないんです。気合を入れて買ったものだけになんとか納得のいく音で鳴らしたい。
 このスピーカーは同軸2ウェイ。つまりウーファーの真ん中にトゥィーターがついてます。そのトゥィーターにはコンデンサがつながってます。低音の暴力的エネルギーを繊細なトゥィーターに伝えないためのものですが、このコンデンサが気に入らない。見た目からして安物っぽいし、なにより3.3uFという容量が大きすぎると思ったのです。コンデンサの容量が大きいほどトゥィーターに流れる低音は増えます。これが音の濁る原因じゃないのか?
 でもそんなことはメーカーは百も承知のはず。ましてコスト的にはコンデンサの容量は少ないほうが有利なのです。ではなぜこんなものがついてるのでしょう?
 実はこのスピーカー、ちょっと変則的です。本来の2ウェイならトゥィーターにはコンデンサ、そしてウーファーには高音カットのためのコイルがつながってます。でもこいつにはコイルがついてません。この「CD408」は厳密な2ウェイというより、フルレンジにトゥィーターを補強した感のあるスピーカーなのです。そこには「スピーカーの素性を味わって聞いてほしい」というメーカーの姿勢がうかがえます。そうです、おそれ多くもあのアルテック様が腰をかがめてお願いしてるのです。この大きめにみえるコンデンサにはそうした深い意味が込められているんです。きっと、多分。

 このスピーカーの本来の使い道は業務放送。あくまでも言葉を伝えるためのもの。仮にこれでオーディオを楽しむならば、せいぜいサブシステムとしてスピーカーの癖までも楽しんでおおらかに聴く、それが大人のやりかたというものです。
 でも、私は不満なんです。この音じゃ嫌なんです。
 このスピーカーをメインディッシュに使ってあまつさえクラシックも鳴らそうという魂胆そのものが間違っているのですが。それは分かってるのですが。
 そーゆーわけでコンデンサを外しました。バッサリと。

 板前さんが「酢醤油でどうぞ」と言ってるさきからカウンターにブイヤベースを持ち込んでグツグツ煮立ててるような、私はそんな客なんです。
「自分の金で食うんだ。なんか文句あっか?」
 さあ、ここからが私の地獄行脚の始まりでした…

 まずやってみたのは純正のコンデンサに代えて、上質で容量少なめのコンデンサに付け替えること。無難です。でもこれでは失敗しない代わり飛躍も望めません。実際やってみてそう思いました。私の求めてるものはこんなまだるっこしい音じゃない!
 というわけでより過激な野望に走ることを決意しました。技もないのに。

 ウーファーとトゥィーターを別々のアンプで鳴らすことにしました。「バイアンプ」というやつです。
 トゥィーターとアンプの間のコンデンサを撤去して、代わりにアンプの前に「ネットワーク」を設けます。ネットワークとは音声信号を高音と低音に分離してそれぞれのアンプに伝えるものです。トゥィーター担当のアンプは高音しか増幅しないしウーファー担当アンプは低音しか増幅しません。アンプとスピーカーを直結できるので鮮度の高い音が期待できます。
 バイアンプは文字通りアンプが2台必要ですが、今使ってるアンプは1台1500円なのでコストは問題になりません。高級コンデンサを買うより安いくらいです。
 以前もICアンプでバイアンプやったことがありますが、パワー不足の電池アンプと低能率のスピーカーの組み合わせのせいか、うまくいきませんでした。今回はよりパワフルなデジタルアンプ(相変わらず電池駆動ですが)と高能率のスピーカーの組み合わせなので期待できます。
 というかここまできたら前に進むしかありません。

 結果、低音は予想通りいい感じにキビキビ鳴ってます。左右別々のアンプで駆動してるのでセパレーションもばっちり。
 でも、どうにも高音がよくない。安物しか使ったことないので一概には言えませんが、どうもデジタルアンプの高音は耳障りに思えます。それがIC本体のせいなのか、アンプの後に入っているLCフィルタのせいなのかはわかりませんが。

 うちには真空管アンプ(TU-870)もあって、こちらは低音は力不足ですが高音は実に心地よく響いて聞こえます。
 真空管アンプのような魅力的な高音と、デジタルアンプのドスのきいた低音が両立できる、そんなアンプがあればいいのに。

 ここまで考えてハッと気づきました。いや誰だって気づくことでしょうが。
 真空管アンプでトゥィーターを、デジタルアンプでウーファーを鳴らせば、夢のオーディオが完成できそうです。
 できるかどうかはともかく、基本的な考えは間違ってないですよね?
 というわけで、やってみました!

 「やってみました!」と言うのは簡単ですが、やるのは大変です。
 「ネットワーク」を作らなきゃいけません。具体的には抵抗とコンデンサを組みあわせて作ります。
 うちのアンプは「音質が劣化する!」といってボリュームさえ付けてないので真空管アンプとデジタルアンプの音量を揃えるための「アッテネータ」も作らなきゃいけません。これは複数の抵抗を組み合わせて作ります。
 ネットワークもアッテネーターも実際に音を聞いて微調整する必要があります。抵抗とコンデンサの組み合わせを微妙に替えるのです。なかなか面倒です。いや、面倒なんて生易しいもんじゃありません。
 やり直しのたびにケーブル抜いて、アンプの中を開けて、ハンダ付けして、またアンプをネジ止めして、ケーブルを配線し直すのです。
 開けたり閉めたり、抜いたり差したり… それだけならまだなんとか我慢できます。
 でも、ハンダ付けだけは我慢できません。私は

ハンダ付けが嫌いです

 それだけではありません。ただでさえ嫌いなハンダ付けなのに、それをやり直すたびに部品が、基盤が熱で汚れ、痛んできます。
 ええ。私はハンダ付けが

目茶苦茶ヘタです

 そんなに苦労してハンダ付けをしたのに、ようやく組み立てて鳴らそうとしたら配線の向きが逆だったなんてことがザラにあります。
 もしくは狭いアンプの中ゴチャゴチャと部品をつけてるあいだにヘンな所に力が入って他の部品がとれた、なんてことも平気でしてます。
 そうです。私は

目茶苦茶アホです

 ついでに言うと短気な性格なので全然アンプ作りに向いてません。

 しかもよりによって季節は夏。それも記録的猛暑。それでもハンダ中は換気のため窓を開けねばなりません。
 そうです。私はこの

狂気に満ちた猛暑の中、外気にさらされながらハンダ付けしとるのです

 ちなみに私の家は日本一暑いと評判の

大阪です

 さらに付け加えると、私の部屋は

プレハブです

 こうして語っているだけでも首筋からしたたり落ちる汗の匂いがこれを読んでいる貴方様に伝わっていくようで嬉しく思います。
 自室で優雅にクラシック音楽に浸りたい、そんな願いのためになぜか半裸で汗だくになってもがいてる私がいます。
 趣味と言ってしまえばそれまでですが、自分で選んだ道のはずがいつしか苦行になってしまってます。

 で、そこまでやって音はよくなったのか?

 全然です

 声が引っ込んで、全然前に出てくれない。
 ウーファーとトゥィーターの勢力範囲の狭間に声の魅力が詰まってる。そこが聞こえない。

 声の出ないオーディオなんて、カスです。

 ここまでやってこのザマか? なんとかならんのか!?
 私はまたあがくのです。半裸でハンダごてを片手に、不毛で汗だくの戦地に赴くのです。まさに無駄なあがきですが。


 真空管アンプの方も気がつけばかなり改造しました。
 真空管アンプの中には大容量の電解コンデンサが多く使われています。でも音質のためには電解コンは避けたい。
 大容量が必要なのは低音の再現のためなので、高音だけ担当するアンプなら必要ないだろう。そう考えて電源部以外の電解コンを容量の少ないタンタルやフィルムコンに置き換えました。高耐圧で大容量のフィルムコンは値段が半端じゃないのでかなり大胆に容量を減らしました。
 音質を左右するカップリングコンもビタミンQというのを使ってたのですが、ハンダ付けの際ダメージ食らったのを機にディップマイカに交換しました。容量はたかだか800pF(0.0008uF)です。
 こんなんで大丈夫なのでしょうか!?
 やはり低域が不安定です。というか1000Hz以下でもう息切れしてます。無帰還にしてたアンプにカソード帰還をかけて多少ごまかしました。
 わざと低域の再現性をなくすことでウーファー側との干渉を避けようという魂胆でしたが、効果はさほどでもないようです。
 というか明らかに邪道です。

 低音を担当するデジタルアンプもいじってみました。
 どういうわけかローパスフィルターをつけても、高音が理論通りに減衰してくれないのです。
 苦しまぎにウーファーにローパス用コイルをつなげてみました。
 ほんのわずか、中音域がクリアになりました。
 それと引き換えに低音の魅力が見事に消え失せました。反応の鈍いラジカセの音に成り下がりました。
 ダンピングファクターが悪化したのです。やはりネットワーク用コイルは諸悪の根源です。特にアルテックの場合、歯切れのよいユニットの魅力が完全に死んでしまいます。コイルは即、撤去。
 もういい知恵もないし年のせいか頭も回らなくなってきたので、やけくそでネットワークのローパスフィルターを二段重ねにしました。
 おっ、声がクリアになってる! これはいいかも。
 …と思ったのは最初だけ。単にクリアになった音がスピーカーから出てるだけです。そこにはなんの感動も躍動感もありません。


 2ウェイ以上のスピーカーではそれぞれのユニットの周波数特性をうまく合わせなきゃいけません。
 今までいろいろいじって、それはある程度改善されました。PCのフリーソフトで計測できるのでわかります。
 でもそれだけじゃ駄目です。「位相」というものもあわせなきゃいけません。
 「位相」とはなんなのか、実はよくわかってません。ただネットワークを使うと位相が悪化する、とは聞いています。
 位相が狂うとどうなるのか。位相があってない音がどういうものなのか。今、身をもって知りました。

 こんな音じゃ駄目です。ダメダメです。

 なにもかもがてんでバラバラにあさってを向いてます。なんとかしなきゃいけません。
 でも、もう駄目です。私は疲れました。力尽きました。
 地獄の果てに迷い込んで、元来た道さえわからない。そんな感じです。
 誰か、誰か私を助けて下さい!
(続く)


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