鳴らないCD編

 どうにも鳴らないCDがある。

ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱」

ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
(モノラル録音)


うんちくは、こちら


 クラシックの演奏の中で私の一番好きな一枚。これが鳴らない。
 スピーカーを買い換え(ジャンクだけど)、CDプレーヤーを買い換え(ジャンクだけど)、アンプを作り(壊してるともいう)、手間隙かけた甲斐あって、うちのオーディオは半年前とは見違えるようになり、今では大抵の曲は実に気持ちよく鳴ってくれる。しかしそこでつい欲を出してしまうからいけない。
「よし、時は満ちた」
 私はおもむろにCDラックの一番奥に眠っているこのとっておきの1枚を取り出し、プレーヤーに供する。
 そしてすぐに期待は失望に変わる。私は思い知る。時はまだ満ちていないと。自分にはまだこの曲を聴く資格はないのだと。

 本来私は「オーディオ」マニアではない。そこそこに鳴ってくれるそこそこの機材があれば満足だ。よく聴くアニソン程度ならラジカセで十分だし、クラシックにしてもCD登場後の録音ならば、ちょっとスピーカーに投資すれば十分鳴ってくれる。そんな志の低いはずの私をオーディオに駆り立てるのは、

この一枚をいい音で聴きたい

 という思いにほかならない。そして思いは満たされない。試行錯誤を重ね、結果としてそれ以外の曲はますますいい音で私を楽しませてくれるというのに、肝心のフルトヴェングラーだけは笑顔を見せてくれないのだ。



今日の試行錯誤・その1 … ラインケーブル

 試行錯誤は今も毎日のように続いている。しかし打つ手は限られてきた。さらなる効果を求めるには投資の額をひとケタ増やすしかない。失業中の身にそんな贅沢はできない。そんな私に残された数少ないフロンティアが、ラインケーブルの交換とボリュームの換装だった。
 ラインケーブルは未だ手つかずだった。それこそ100円ショップでも売ってるような最低ランクのものしか使ってなかった。プレーヤーからアンプに直結したり、セレクターを通したり、いろいろつなぎかたを替えても私には音の違いが分からなかったからだ。違いが分からない耳には投資は不要だろうと。それに、それなりのケーブルって1メートルン万円(!)でしょ? そんなの買えないもん。
 でも安上がりに作れる方法を知ったので試してみた。テレビの配線に使う「同軸ケーブル」を代用するのだ。
 同軸ケーブルは「3C−2V」という規格のものが家にあまってたのでそれを使った。(同等の「3C−FV」は近所のDIYショップで10センチ8円で切り売りしてる)。プラグは秋葉原の秋月電子で1個100円のやつを4つ買ってきた。

 2本で500円弱の投資ならダメもとで許せる。短く作った分、多少は音が良くなるだろう、くらいの気持ちで聴いてみた。

一本200円強のわりには見栄えはいい。

劇変!

 ああ、びっくりした。こんなに変わるものなのか。
 「いい音になった」というより「余分な音がなくなった」という方が正しいのだろう。特に高域がすっきり聴こえる。もともとTV信号のような高周波の伝送に作られてるから高域特性がいいのは当然かもしれない。低域は音量としては減った。というか無駄な付帯音が削られたという感じ。ようするにクリアな音に化けた。いままででいちばんコストパフォーマンスのいい改造(?)だろう。ほかのビデオ機器とかの接続も全部これに替えたくなった。



今日の試行錯誤・その2 … ボリューム

 私にはボリュームが必要だった。
 今、我が家では、左右のスピーカーを別々のアンプで鳴らす「バイアンプ」というつなげ方をしている。音はよくなったが、音量を調節するのに左右のアンプのボリュームをそれぞれ調節してやらないといけない。
 面倒くさい。
 こんな時、普通ならプレーヤーとアンプの間に「プリアンプ」を入れて、プリアンプのボリュームひとつで音量を調整するのだが、うちにはプリアンプなんかないし作るつもりもない。もちろん買う気もない。
 かわりに、手作りセレクターの中にボリュームを追加してみた。

自作セレクター。本当は右の穴にボリュームをつけたんだけど…

劇変(笑)!


 めちゃくちゃ、音が悪くなった。即座に撤去。

 開けた穴は適当なシールでふさぎました。


 ボリュームって、ただ音量を調整するだけなのに、あれ一つでかなり音が劣化するらしい。安物はダメダメらしい。と噂では聞いてたのだが、この実験で実感。
 ということは今のアンプについてるボリュームも音を劣化させてるかも。
 というわけでちょっと奮発して、高級なボリュームを買ってきた。

写真とるの忘れてショップの写真を無断掲載(謝)アルプスミニデテントボリューム(1800円)

 取り付け場所もセレクターにつけるのをやめて、アンプの直近につけなおした(近いほうが音の劣化が少ないと思って)。
 ついでに2つのICアンプもひとつの箱におさめてすっきりさせた…

うちのメインアンプ!

…全然、すっきりしてませんね。
無理やり押し込めたので蓋が閉まりません。
やけになって100円で買ってきた電池チェッカーも無理やり接続。
なにせ電池駆動なので気になる電圧。
その内部

内部です。
見よ、フンドシにおさまりきらないこの魅力!(by古賀亮一)
もはや作った私にもわけわかりません。
なぜこんなので鳴るのか不思議になります。

で、音ですが。

劇変!(もういいって)

 ラインケーブルを替えた時と同じで、音がますますクリアに。低音のもやもやが払拭されたので、結果として解像度の高い音に。ラインケーブル効果と合わせて二階級特進(笑)。
 音量を下げても密度の高い音がキープできるので、寝る前にボリューム絞って聴くのが楽しみな自分には好都合。そして非力な電池アンプにとっても好都合といいことづくめ。この一両日ですっかり別次元の音になってしまった。シンプルなシステムほど、ちょっといじるだけで音が激変するのが、シュミとしては楽しいところだ。ただし自分が何をしたか覚えてないと失敗したとき元に戻せなくなるけど。

 で、とにかくこの音を聞いて(ようやく本題にはいる)思った。
「ひょっとして、時は満ちたのではないか!?」(長い前振り)。

 鳴らしてみた。これ。



 鳴った、鳴りました! ようやく。
 理想にはまだほど遠いものの、ちゃんと録音されてる音が聞こえる! 地層に埋もれていた化石の、はさまったドロを洗い流したくらいの値打ちはある。ノイズに埋もれていた音が聞こえる! 最後のクライマックスを聞きながら、そして感動のラストが終わって、私はやった! と思わず心で叫んでいた。

うんちく 〜フルトヴェングラーの第九〜

 本当は「フルトヴェングラーが振るベートーヴェンの第九」なんだけど、「フルトヴェングラーの第九」で話が通じるくらい、彼の振る第九には定評がある。彼が残した第九の録音はおそらく10種類前後にのぼると思われるが、群を抜いて有名なのがここでとりあげる「バイロイト盤」である。
 これは歴史的名演である。輝ける人類の遺産である。
 なにをおおげさな、と不審に思う人はネットで検索してみるがいい。
 なんでこんなノイズまみれの50年も昔の演奏を今もなおありがたがって聞きたがる人間が沢山いるのか。
 それは私をふくめたそうした人々が「優れた録音」ではなく「優れた演奏」を求めているからだ。

 実はあまりベートーヴェンは好きじゃない。たいした作曲家ではない、とさえ思っている。彼の作品で真に芸術と呼ぶにふさわしいのは、第九の後に作られたいくつかのピアノソナタと弦楽四重奏曲ぐらいではないか。
 それ以前の彼の作品は品がない。ダサい。中でも文句なしに一番ダサいのが他ならぬ第九だと思う。

 その第九がフルトヴェングラーの手にかかると一変する。いや、さらにダサさを増し、汗くさささえ漂ってくる。その泥臭さを究めたその演奏はしかし生命感に満ちている。彼の指揮棒がベートーヴェンの奇数番号のシンフォニーを奏でる時の奇跡については既に様々な書籍やHPで語られているのでここで繰り返すことはしないが、その中にあってもこのバイロイト盤は別格なのだ。

 「川の流れのように」

 いっけん自由奔放な水の流れがその実、物理の法則に従う必然であるように、彼のベートーヴェンもまた、人間心理という法則に従っている。だからこそ人として共感し、感動できる。彼はスタジオよりもライブでこそ本領を発揮し、しかも残された演奏は同じ曲であってもどれひとつとして似ていない。奇をてらってそうなったのではない。彼はその時の自分の感情、ホールに詰めかけた観客の熱気、時代の空気、そのすべてを演奏という自己表現に昇華した。いっけんデタラメに聴こえる彼の演奏はすべて必然なのだ。このバイロイト盤のラストの異常ささえも!
 楽譜という不完全な意志伝達手段では到底理解できないはずの深い境地を、彼は作曲者になりかわって具現化した。普通の人間なら冒涜と思えることが、フルトヴェングラーがベートーヴェンを振る時にだけは許された。それほどの演奏であり、それほどの指揮者なのだ。

 若い頃、この名演を聴いて感動した。あれは確かラジカセか何か、とても頼りないオーディオだったと思う。そんなチープな環境でもこれの真価を知り得たあの日の感受性を、今の自分はうらやむ。
 けれど今の自分のシステムは衰えた感受性を補ってくれた。フルトヴェングラーは再び私に不器用で屈託のない笑顔を見せてくれた。まるで人見知りの子供のようにかすかに微笑んでくれただけだけど。

 これで万事めでたし、といいたいところなのだが、拾う神あれば捨てる神あり。
 こんどはこのアルバムの演奏に問題が起きてしまった。



 これのエンディング「声をきかせて」。コントラバスが実にいい感じなのだが、それが音がすっかりやせてしまった。おそらく今までは、CDに入ってない低音をうちのオーディオが勝手にでっちあげていい音聴かせてくれたのが、ケーブル交換&ボリューム換装で解像度がアップしたせいで、そのナゾの音がはぎ取られたに違いない。

 フルトヴェングラーを取るか、どれみをとるか。
 苦悩は続く。


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